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神戸地方裁判所 昭和61年(ワ)60号 判決

原告 三田商事株式会社

右代表者代表取締役 三田武雄

右訴訟代理人弁護士 木村保男

同 的場悠紀

同 川村俊雄

同 大槻守

同 松森彬

同 中井康之

同 福田健次

被告 新井国弘

参加人 平田繁

主文

1  被告は原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明渡し、かつ昭和六一年一月一〇日から右建物明渡しずみまで一か月金六万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  参加人の参加申出を却下する。

4  訴訟費用中、原告と被告との間に生じたものは被告の負担とし、参加によって生じたものは参加人の負担とする。

5  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明渡し、かつ昭和六一年一月一〇日から右建物明渡しずみまで一か月金一八万円の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  参加人の参加申出の理由及び請求の趣旨

(参加申出の理由)

1 参加人は、昭和五九年一〇月一八日本件建物を、もと所有者の三浦隆宥から期間三か年、賃料一か月六万五〇〇〇円、転貸できる約定で賃借し、右賃借権の範囲で被告に転貸しているものである。

2 参加人の本件建物の賃借権は原告に対抗しうるものであるが、本訴において原告に対し被告が本件建物を明渡すことになれば、参加人の有する本件建物の賃借権が事実上消滅する結果となるので、被告の共同訴訟人として本訴に参加の申出をする。

(請求の趣旨)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)は、もと三浦隆宥の所有であったが、同人は昭和五三年一〇月九日相銀住宅ローン株式会社に対して抵当権を設定し、同会社から東京海上火災保険株式会社に右抵当権が移転されて、同会社が右抵当権に基づき本件建物の競売を申し立て(神戸地方裁判所昭和五九年(ケ)第四〇五号)、競売手続が進められたところ、原告は、昭和六〇年一二月二三日競落により本件建物の所有権を取得し、同六一年一月九日その旨の所有権移転登記を終えた。

2  被告は本件建物を占有している。

3  原告は、被告が本件建物を占有することにより、少くとも一か月金一八万円相当の損害を被っている。

4  よって、原告は被告に対し、本件建物の明渡しと、昭和六一年一月一〇日から建物明渡しずみまで一か月金一八万円の割合による損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告及び参加人の認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の事実は争う。

三  抗弁

1  参加人は、前記のとおり、本件建物をもと所有者の三浦隆宥から賃借したものであり、次いで被告は、昭和五九年一〇月一八日参加人から本件建物を期間三か年、賃料一か月六万五〇〇〇円、敷金八〇万円の約定で賃借して占有するものである。

2  参加人の有する本件建物の賃借権は、競落により本件建物の所有権を取得した原告に対抗しうるものであり、従って被告の本件建物の占有も原告に対抗しうる。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

五  再抗弁

仮に被告及び参加人主張の本件建物の賃貸借契約が存在するとしても、

1  右賃貸借契約は、三浦と参加人間の通謀虚偽の意思表示に基づくもので無効である。すなわち、右賃貸借契約は、本件建物につき、後記の神戸市や大蔵省の差押がなされた後に成立しているのであるが、通常このような状態のもとで建物の賃貸借をなすことはありえないのであって、競売手続の妨害だけを目的とした賃貸借としか考えられない。従って右賃貸借は仮装というべきである。

2  本件建物につき、まず昭和五九年四月二三日滞納処分により神戸市から差押えがなされ、次いで同じく滞納処分により同年八月一七日大蔵省から、さらに同月二九日神戸市から、それぞれ参加差押がなされている。従って同年一〇月一八日に成立したという三浦と参加人間の本件建物の賃貸借契約は、すでに本件建物につき差押による処分禁止の効力が生じたのちの契約であり、三浦は本件建物を賃貸借する権限を有しなかったものである。滞納処分による差押以後に設定された短期賃貸借は、その後に開始された抵当権実行による競売手続により競売物件が売却された場合でも消滅する。すなわち、滞納処分と強制執行との手続の調整に関する法律(以下、単に「滞調法」と略称する。)により滞納処分による差押え後に強制競売の開始された不動産につき、強制執行続行の決定がなされたときは、以後実質上両手続は一体として進行することになり、滞納処分の処分庁は裁判所に交付要求をなし、民事執行の競売手続のなかで支払を受けることになるが、元来滞納処分による差押にも処分禁止の効力があり、右差押後に設定の短期賃貸借は処分庁に対抗できないものであって、競売裁判所は処分庁から交付要求がなされたときは、差押後の短期賃貸借はすべて消滅するものとして、競売不動産を評価し売却することになる。本件建物の競売手続において滞納処分庁から交付要求がなされているから、被告ら主張の本件建物の短期賃借権は本件建物が原告に売却されることによって消滅した。してみると、被告の本件建物の賃借権は原告に対抗しえない。

六  再抗弁に対する参加人の認否

参加人と三浦との間の本件建物の賃貸借契約は昭和五九年一〇月一九日に成立しているところ、本件建物の競売手続が開始されたのは同年一二月二一日である。本件建物につきなされた滞納処分による差押と裁判所の競売手続による差押とは、いずれも平行してなされた差押であって全然別個であるところ、原告の取得した本件建物の所有権は、滞納処分による公売手続でなく、裁判所の競売手続によったものであるから、滞納処分による差押の効力とは無関係である。参加人は裁判所の競売手続が開始される以前に本件建物の賃借権を有したものであるから、右賃借権を原告に対抗できる。

第三証拠《省略》

理由

一  まず参加人の本件参加申出の適否について判断する。

参加人は民訴法七五条により被告の共同訴訟人としていわゆる共同訴訟参加の申出をするものであるが、参加人の主張によると、参加人は、被告が原告から明渡しを求められている本件建物を、もと所有者の三浦隆宥から賃借していたところ、さらにこれを被告に転貸借したというのであるから、参加人と被告は本件建物の賃貸人(転貸人)と賃借人(転借人)の関係にとどまる。ところが一方本訴の目的である本件建物の明渡請求訴訟は、必ず参加人と被告とを共同訴訟人としなければならない訴訟ではないのであるから、当事者である原告と被告の一方及び参加人との間で合一に確定すべき必要のある訴訟すなわち訴訟の目的である権利又は法律関係についての判決の内容が各人に区々別々になってはならない関係が法律上も要請されている訴訟にはあたらないといわなければならない。してみると、参加人の本件参加申出は共同訴訟参加の要件をみたしていないから同条による参加としては不適法として却下すべきである。

しかしながら、他方、参加人は、被告の訴訟告知により本訴に参加を申出たものであり、参加人は原告と被告との間の訴訟の結果につき利害関係を有する第三者に該当することはこれを認めうるから、参加人の本件参加申出は被告に対する補助参加の申出として効力を有するというべきである。従って、参加人が本件訴訟でなした訴訟行為は被告の補助参加人としてなしたものとして扱い、本訴は参加人から被告に補助参加がなされた関係の訴訟である。

二  そこで原告の被告に対する本訴請求について検討を進める。

(一)  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

(二)  次ぎに被告の本件建物に対する占有権原の有無(抗弁及び再抗弁)について判断する。

1  《証拠省略》によれば、本件建物のもと所有者三浦隆宥と平田繁との間に、昭和五九年一〇月一八日本件建物を賃料一か月六万五〇〇〇円、毎月末日先払、存続期間三年、譲渡・転貸ができるとの定めで賃貸借契約が成立し、同月一九日付で本件建物につき、その旨の賃借権設定登記がなされていること、そして平田は同月一八日被告との間で本件建物を賃料一か月六万五〇〇〇円、毎月末日限り先払い、敷金八〇万円、賃借期間三年と定めて賃貸借契約を締結し、そのころ本件建物を被告に引渡し、以来被告がその家族と共に本件建物を占有していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、本件建物につき、もと所有者の三浦隆宥と平田繁との間に賃貸借が存在し、次いで平田と被告との間に転貸借が存在すると認めるのが相当である。

原告は本件賃貸借は三浦と平田との間の通謀虚偽の意思表示に基づくもので無効であると主張するが、これを首肯するに足る証拠がないので該主張は採りえない。

2  そこで前記当事者間に争いのない事実(請求原因1の事実)に、《証拠省略》によれば、本件建物につき、まず昭和五九年四月一九日神戸市(長田区役所)が滞納処分により差押えて同月二三日その旨の差押登記がなされたこと、次いで同年八月一七日付で大蔵省から、さらに同月二九日付で神戸市から、いずれも滞納処分による参加差押の登記がなされていること、その後本件競売事件において神戸地方裁判所が同年一二月二〇日不動産競売開始決定をなし、同月二一日その旨の差押登記がなされ、右競売手続が進められて原告が本件建物の売却許可決定を受けその所有権を取得したこと、本件競売事件の基礎となっている東京海上火災保険株式会社の抵当権は昭和五三年一〇月九日に設定されて同日その登記がなされたものであることが認められるので、参加人と平田との間の本件建物の賃貸借は、民法三九五条により抵当権者に対抗しうる短期賃貸借にあたるといわなければならない。そうとすると、平田は該抵当権の実行による競売手続により本件建物の買受人である原告に対しては右短期賃借権を対抗しうるが如きであるが、しかしながら、一方右賃貸借の成立は滞納処分による差押えに遅れていることが明らかなので、右賃借権は滞納処分による差押によってその効力に消長を来すかどうかを検討しなければならない。

3  もとより不動産に対し滞納処分による差押えがなされているからといって、直ちに当該不動産の使用収益が禁止されるわけではないが、差押えによって把握される換価価値に影響を及ぼすような処分は許されないので、滞納処分による差押登記後の処分は滞納処分庁の国又は地方公共団体に対抗できないものであって、滞納処分による差押えについても処分禁止の効力があることは明らかである。従って平田の本件建物の賃借権は滞納処分庁の神戸市や国に対抗しえないものである。

4  ところで、本件競売事件は先行の滞納処分に遅れて開始されたものであるが(もちろん競売手続による差押えに処分禁止の効力が認められることは滞納処分による差押えと同様である。)、《証拠省略》によれば、先行の滞納処分が解除されたわけではなく、滞調法一三条による後行の競売手続につき続行決定があって本件競売事件が進められたものであり、そこで進められた本件競売事件において滞納処分庁から執行裁判所に対し交付要求がなされていることが認められる。

もとより滞納処分と民事競売執行とは執行機関、清算の対象者、手続の細目を異にする異種執行ではあるが、手続が相違しても実現される交換価値それ自体は変らないのであるから最終的に対象不動産の売却代金につき実体法に則った配分が保証されれば足りるのであって、いずれの手続によるもそれが可能であることを予定しているのであり、滞調法は異種執行相互間の調整をはかるものである。異種執行の滞納処分の差押効力を当然に競売執行手続で直接に援用できる定めはないけれども、もともと自ら交換価値の実現をはかることができる滞納処分庁に代って執行裁判所が競売手続を進行するわけであり、その手続で執行裁判所に対して滞納処分庁からもその権限に基づき滞納税額の交付要求がなされておれば双方の執行手続それ自体は異種とはいえ、交換価値の実現をめざす手続としては一体であったというべきであり、この場合先行滞納処分の差押効は維持されたまま、競売執行の手続において双方の執行手続が一体となって完了する関係にあるといわざるをえない。結局先行の滞納処分による差押に対抗しえない短期賃借権は、先行の滞納処分に遅れて開始された民事執行競売手続が続行決定によって続行されて競売不動産が売却されるにいたったところ、右競売手続において滞納処分庁からの交付要求があるときは、民事執行法五九条二項の類推適用により、差押債権者に対抗できない賃借権であり、売却によって消滅すると解するのが相当である。

4  そうだとすると、平田の本件建物の短期賃借権は、本件競売事件において本件建物が売却されたことにより消滅したといわなければならない。従って被告の本件建物の占有は平田の賃借権に基礎をおいて同人から転借した賃借権にすぎないから、平田の賃借権が消滅している以上転借権も消滅し、その存在を主張しえないことになる。

(三)  右のとおり、被告はその主張の賃借権(転借権)をもって本件建物の買受人である原告に対抗することができないから、被告の本件建物の占有は権原のない占有といわざるをえない。被告の抗弁は理由がない。

(四)  そうとすると、原告が被告に対して本件建物の所有権を主張しうる昭和六一年一月一〇日以降の被告の本件建物の占有は、原告に対抗しえないいわゆる不法占有にあたることになり、原告は被告の本件建物の占有により損害を被っているといわなければならないところ、原告は右損害は少くとも一か月金一八万円相当と主張するが、これを的確に認めるに足る証拠はなく、前記認定の事実によれば、被告は本件建物を賃料一か月金六万五〇〇〇円で賃借していることが認められるので、右損害は右賃料額に相当する一か月金六万五〇〇〇円の割合と認めるのが相当である。

(五)  そこで、被告は原告に対し、本件建物を明渡し、かつ昭和六一年一月一〇日から建物明渡しずみまで一か月金六万五〇〇〇円の割合による損害金を支払うべき義務がある。

三  よって原告の本訴請求は、右認定の限度で理由があるのでこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 坂詰幸次郎)

〈以下省略〉

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